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愛媛大学 副学長(未来価値創造、広報)
未来価値創造機構長
山下 政克(やました まさかつ)
2012年10月に大学院医学系研究科教授となる。大学院医学系研究科長、医農融合公衆衛生学環長を経て、
2024年4月から副学長、未来価値創造機構の初代機構長に就任。広報室長も務める。
専門分野は、「免疫学」。博士(薬学)。
山下お二人とも学外から愛媛大学に着任され、それぞれの分野で研究を進められています。まずは、今の研究環境について教えてください。
志達私はブラックホールの研究をしていて、X線観測データの解析を行っています。X線天文衛星の開発や運用にも携わってきました。宇宙の研究は一つの大学だけで完結するものではなく、JAXAや海外の研究機関と連携しながら進めています。愛媛に来てからも、そうしたネットワークを維持しながら研究を続けています。
大西私は機械学習の理論を研究していますが、理論分野は比較的、場所を選ばずにできます。AIの研究も含めて、データや計算環境があればどこでもできる部分が増えてきているからこそ、場所の意味は少し変わってきていると感じています。その中で、愛媛大学は自由に研究できる環境があると感じています。
志達愛媛大学については、学生の頃からブラックホール研究の強みがある大学だと認識していました。実際に来てみると、分野の近い研究者が比較的多く、議論や交流の機会にも恵まれており、研究に集中できる環境だと感じています。
大西僕は共同研究をきっかけに松山に来たんですが、来てみてまず思ったのは、環境の良さですね。
志達研究だけでなく、生活とのバランスも取りやすいですよね。都会のように人や物が過度に集中していない一方で、生活や研究に必要な利便性はほどよく確保されていると思います。
大西そうなんです。中にいると当たり前かもしれませんが、外から来ると、この環境の良さはすごく大きく感じます。研究に集中しやすいですし、空港も近くて、人が多過ぎない点も含めて、バランスの良い場所だと思います。
志達地方にいてもネットワークを活かせますし、その上で落ち着いて研究できる環境があるのは大きいですね。
大西「地方大学だから難しい」というより、どう活かすかの問題だと思っています。
志達地方大学という条件そのものではなく、そこで何をするかが重要なのだと思います。
山下地方大学でも世界をリードする研究はできるというお話がありましたが、その前提となる研究環境についてもう少し教えてください。
志達宇宙の研究では、多くの観測データが国際的に共有されており、インターネット経由で容易に取得できるので、どこにいても解析ができます。JAXAやNASAなどが提供しているデータを使いながら、海外の研究者とも同じ土台で議論ができます。
大西僕の分野も似ていますね。理論研究はコンピュータとネットワークがあれば成り立つので、場所そのものが制約になることはあまりありません。
志達だからこそ、地方大学にいても、先端的な研究を進めることは十分可能だと思っています。むしろ、これまでの研究コミュニティとのつながりをどう維持していくかの方が重要だと思います。
大西どこにいるかというより、誰とつながっているかの方がずっと大きいですよね。
志達完全に一人でできるわけではないので、共同研究の枠組みはやはり重要です。宇宙分野では、衛星ミッションや大規模な観測プロジェクトなど、多くの研究者や技術者がチームとして取り組む活動も少なくありません。その中では、国内外の研究者やエンジニアと密接に連携し、議論を重ねながら研究や開発を進めています。
大西地方にいるからこそ、外とのつながりを意識的に持ち続けることは大事なのかもしれません。
志達そうですね。ネットワークがあることで、研究の可能性は大きく広がります。
大西データや環境が共通になってきているからこそ、最後は発想の違いになりますよね。
志達同じデータでも、何を見るか、どう解釈するかで結果は変わってきます。
大西そこに新しさが生まれるんだと思います。
山下つまり、場所そのものではなく、その環境をどう活かすかと、発想と幅広い連携の方が重要になるということですね。
山下ここまでのお話で、地方でも研究は十分にできるチャンスがあるということが見えてきましたが、逆に地方だからこその強みについてはどう感じていますか。
志達やはり一番大きいのは「自由にやらせてもらえる」という点だと思います。基本的な枠組みはありつつも、それぞれの研究が尊重されていて、自分の興味や問題意識に基づいて進められる環境があると感じます。
大西僕も同じ印象ですね。特に理論分野だと、「何をやるか」は本当に自由度が高いので、その「余白」自体に価値があると思っています。大きな研究機関や資金のある環境だと、研究資金やこれに対する成果に向けられる圧力も強く、どうしても流行っているテーマに人が集まりやすいんです。
志達確かに、競争が激しい分、方向もある程度揃ってきますよね。
大西それは効率的でもあるんですが、まだ誰もやっていない方向に時間をかける余裕は少なくなってしまう。
志達天文学でも似たところがあります。データや解析ツールなどは共有されていますが、その先で何を見るか、どう解釈するかは研究者に委ねられています。
大西だからこそ、地方大学のように、少し距離を置いて考えられる環境は意味があると思っています。
志達規模が大きすぎないからこそ、分野を超えて話しやすいのもありますよね。
大西最初から大きなプロジェクトにする必要はなくて、小さいアイデアを試せる。その積み重ねが重要なんだと思います。
志達その「試してみる」ができる環境は大きいですね。
大西研究は、小さな違和感や少し違う視点から始まることが多いと思っています。ノーベル賞級の研究も、最初は地方にいる時に生まれたような小さなアイデアが出発点になっているケースが多い。だから、「ここでもそういう研究はできる」と本気で思えるかどうかはすごく大事だと思います。
志達周りの雰囲気も大きいですよね。「ここでもできる」と思えるかどうかで、後から来る人の意識も変わってきますし、取り組み方も変わってくると思います。
大西そうですね。少し精神論っぽく聞こえるかもしれないですが、「ここから世界的な研究を生み出せる」「ノーベル賞につながる研究の種も生み出していける」という感覚を共有できるかは大きいと思っています。
志達そういう意味では、地方大学という環境は、イノベーションの“種”が生まれやすい環境であり、人も育っていく場所なのかもしれません。
山下「地方だから不利」というよりも、「地方の環境でどんな種を育てるか」。自由なアイデアが重要ですね。
山下実際の研究の現場で、今感じている課題についてはいかがでしょうか。
志達そうですね。研究自体は自由に進められる環境がある一方で、事務的な業務の負担はやはり大きいと感じています。
大西分かります。外部資金として研究費を獲得すると、その分だけ手続きや管理業務も増えていくので、どうしても時間は取られてしまいます。
志達物品購入や出張の手配なども含めて、細かな手続きを自分で対応することが多いですし、学生や研究員の分も含めるとそれなりの負担になります。
大西理論分野だと特に、「考える時間」がすべてなので、そこが削られるのは結構大きいですね。
志達海外の研究者を受け入れる場合も、研究以外のサポートに時間を取られることは多いです。住居やビザの手続きなど、教員側で対応する部分も少なくありません。
大西結局、時間を確保するために人を雇うとか、そのために研究費が必要になるというところもあって、単純に「お金があればいい」という話でもないんですよね。
志達本来は研究に集中したい時間が、どうしても周辺業務に取られてしまうのは課題だと感じています。加えて、大学全体として職員の方の人数も限られている中で、事務手続きなどの業務量自体が以前より増えてきており、結果として職員の方への負担が大きくなっている部分もあると思います。その影響から、教員側で対応する部分が増えている側面はあるのかなと感じています。
大西それは確かにあると思います。単純に誰かの負担というより、全体として余裕がなくなってきている印象はありますね。だからこそ、すべてを減らすというよりは、できるところから少しずつ効率化していく流れができると良いのではないかと思っています。
志達教員・職員の双方で負担が大きくなる中で、少しずつでもお互いがハッピーになれるようなやり方を考えていけるといいですね。
大西その一方で、愛媛大学は意見を言いやすい環境だと思っています。「これ本当に必要なのか」という話をちゃんとできる空気はあるので。
志達そうですね。限られたマンパワーや予算の中でも、仕組みとして改善できる余地はまだあると思いますし、少しでも効率化できると、研究の時間は増やせると思います。
大西自由に研究できる環境はあるので、それをどう支えるか、という段階に来ている気がします。
山下研究の自由さと、それを支える仕組みを大学としてどう作るのかが重要ですね。
山下ここまで、研究環境や課題について伺ってきましたが、研究人材が集まってくるための魅力づくりや工夫についてはどう考えていますか。
志達正直なところ、「地方大学」というだけで選択肢から外れてしまうケースもあるとは思います。ただ、実際に来てみると研究環境や生活環境のバランスが良いと感じる方は多いので、それをどう伝えるかが重要だと思います。
大西それはすごく感じますね。外から来た人の方が、この環境の良さに気づきやすいと思います。中にいると当たり前になってしまうんですが、実はかなり恵まれている。
志達研究に集中できる環境があるというのは大きいですよね。
大西そうですね。ただ、それだけだと伝わりにくいので、「ここで何が起きているのか」をちゃんとストーリーとして伝えていくことが大事だと思っています。
志達研究の中身だけでなく、どういう人たちがいて、どういう雰囲気で研究しているのか、という部分も含めてですね。
大西「なんか面白いことが起きていそうだ」と感じてもらえるような状態がつくれると、人は集まってくると思うんです。
志達まずは短期でも来てもらう機会をつくることも大事ですよね。そこから関係が続くことも多いですし。
大西あとは日常的な場のつくり方も重要だと思っています。例えば、サンドイッチを片手に気軽に集まって話せるような場とか、もっとカジュアルに人がつながれる環境ですね。
志達大学の中にいる私たちも、他の分野でどのような研究が行なわれているのかを知らないことも少なくありません。そういう場があると、他の分野の研究を知るきっかけにもなりますし、分野を超えたやり取りも生まれやすいですよね。
大西Slack(チャット型のコミュニケーションツール)のように、誰でも気軽に参加できてゆるくつながる場があるだけでも、かなり変わると思います。
志達研究室や組織の枠を超えてつながれるのは大きいですね。
大西トップダウンで何かを決めるというよりも、そういう場から自然にアイデアやつながりが生まれていく方が良いと思うんです。
志達結果として、その場の雰囲気に惹かれて人が集まってくる、という形が理想かもしれません。
大西「人を集める」というより、「人が集まる場をつくる」という感覚に近いと思います。
山下大学として考えたとき、良い人材を囲い込むという発想になりがちですが、それだけでは難しいと感じています。
志達一つの場所にずっと留まるというよりは、外との行き来の中で研究が広がっていく部分もありますよね。拠点を移すことで、新しい環境や人とのつながりから新たな視点や発想が生まれ、革新的な成果も生まれやすくなります。
山下愛媛大学で環境を整えて、自由に研究できる中で成果を出す。それを次の場へ広げていくことも自然な流れですし、それが愛媛大学の価値にもつながると思います。
大西外に出た人が「愛媛大学で研究していた」と言ってくれるだけでも、次につながっていきますよね。
志達そうやって人が外に広がりながら、また別の形でつながっていく。その循環はとても大事だと思います。私自身もそうですが、地方大学でテニュア職を得て、初めて研究室を立ち上げる若手研究者は少なくないと思います。そこで実績を積み、研究者として成長し、新たな場に移っていく人もいるでしょう。
大西そういう流れが見えると、「ここでまずやってみよう」と思う人も増えてきますよね。一つの場所に留まるだけでなく、キャリアの中で動きながら広がっていく前提で考えられると、選択肢も広がると思います。
志達そして、その姿に刺激を受けた新たな研究者が集まってくる。そうした好循環を、地方大学を起点に作ることができれば、今後の日本の科学研究全体に対しても大きな意味があると思います。
山下一方向ではなく、行き来があることが重要ですよね。そうしたつながりの広がり自体が、大学の強みになっていくのではないかと思います。
大西場所に固定されるというより、いろいろなところとつながりながら研究するという形の方が、これからは自然かもしれません。
大西これからは、AIの時代が進んでいく中でも、やはり自分の頭で考えて、人とは違う視点を持つことが重要になっていくと思います。みんなが東京に行くとか、海外に行くとか、そういう流れだけではなくて、自分が面白いと思う場所や、自分が価値を感じる環境を選んでいく。その中で新しいものが生まれてくるのだと思います。
志達そういう意味では、環境の価値をどう捉えて、どう活かすかという視点も大事ですよね。愛媛大学ならではの良さをいろいろな場で伝えていきたいです。そうした雰囲気づくりを続けながら、若い人にも来てもらって、学生も含めて人が育っていく環境をつくっていきたいです。
大西そうですね。さらに言うと、これからはむしろ地域に価値が出てくる時代になる可能性もあると思っています。データや手法が標準化されて、AIが多くのことを処理できるようになるほど、その土地ならではの人とのつながりや環境といった「コンテキスト」が重要になってくる。そこからしか生まれない発想があると思うんです。
志達だからこそ、地域の中にあるそうした強みや面白さを、私たち自身がきちんと伝えていくことが大事だと思います。そういう“地域の中にある光る部分”を、これからもっと見える形にしていきたいです。
大西「地域か最先端か」という話ではなくて、地域から新しい研究が生まれていく、そういう流れがこれからはより重要になると思っています。
山下今回の対談で話していただいた考え方も含めて、これからの愛媛大学における研究の進め方、方向性を考えていく必要がありそうですね。今回のお話をヒントに、より良い研究環境づくりに取り組んでいきたいと思います。
対談を通じて浮かび上がったのは、「地方大学だからこそ生まれる研究がある」という視点です。自由に考え、試すことができる環境の中で、小さなアイデアが育ち、やがて大きな可能性へとつながっていく。その背景には、研究者同士がフラットに議論できる場や、外とつながり続けるネットワークの存在があります。また、人材は一つの組織に留まるのではなく、外へと広がり、再びつながり続ける。その循環やネットワークの中で、研究の価値や愛媛大学の存在も大きくなっていきます。地域か先端かではなく、地域から新しい価値が生まれていく時代へ。今回の対談は、その可能性を示す一つのかたちとなりました。