EHIME UNIVERSITY Organization For Creation of Our New Value
未来価値創造機構
大学が拓く、挑戦に
『寛容』な学びの場と
『ハブ人材』の育成
愛媛大学
副学長(デジタル情報人材育成)
高橋 寛
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愛媛大学
副学長(地域協働)
羽藤 堅治
愛媛大学 副学長(デジタル情報人材育成)
デジタル情報人材育成機構長
高橋 寛 たかはし ひろし
2010年4月に大学院理工学研究科教授となる。総合情報メディアセンター長、工学部長、大学院理工学研究科長を経て、2024年4月から副学長に就任。デジタル情報人材育成機構長も務める。
専門分野は「計算機工学」。博士(工学)。
愛媛大学 副学長(地域協働)
地域専門人材育成・リカレント教育支援センター長
羽藤 堅治 はとう けんじ
2013年2月に農学部教授となる(2016年4月から農学研究科教授)。学長特別補佐を経て、2024年4月から副学長に就任。地域協働推進機構副機構長、地域協働センター西条センター長も務める。
専門分野は「植物工場情報システム学」。博士(農学)。
Summary

今回の対談では、デジタル領域のリスキリングを進める高橋教授と、地域で多様な学びの場を展開する羽藤教授が、大学における学びの価値を語り合いました。挑戦することによる失敗を受け止める「寛容な学び」をどう守り育てていくのか、異なる人や知を結びつける「ハブ人材」(異なる分野や立場の人をつなぎ、協働を促す役割を担う人。ハブは、ネットワークの中心や結節点を意味し、ここでは人と知識を結びつける役割を指します。)がどのように育成されるのか。高校生、大学生、社会人、誰もが必要なときに学べる大学であるために――総合大学としての強みや、地域に大学がある意味にも触れながら、その核心に迫ります。
【対談日:2025年12月4日 ※所属・職名は対談日時点のものです。】

今、学び直しが求められるわけ
──変化の時代に応えるために

高橋リスキリング※1が今注目されているのは、社会の変化が速く、一度学んだ知識だけでは課題に対応できなくなっているからだと思います。今は、課題が小さく、細かく、複雑になっていて、従来のように資金を投入して一気に進める資本集約型では解けないケースが増えています。私が機構長をしているデジタル情報人材育成機構では、リスキリングとして、一般社団法人日本ディープラーニング協会が実施するG検定(ジェネラリスト検定)・E資格(エキスパート資格)といった検定の合格や資格の取得と、大学院レベルの実践型PBL※2を組み合わせて提供し、愛媛県のデジタル人材育成施策とも連動しながら、知識を“使いこなせる力”へとつなげています。

羽藤特に地方や中小企業では資本も人材も限られ、複雑な課題に取り組むのが難しい状況があります。だからこそ、現場の人が知識を広げて組み合わせる、知識集約型のアプローチが必要になっています。私がセンター長をしている地域専門人材育成・リカレント教育※3支援センターでは、「地域創生イノベーター育成プログラム」を継続して実施しており、行政、企業、NPO、I/J/Uターンの多様な受講者がDX・GX・SDGsの現場課題を持ち寄り、トップランナー講師との接点から具体のプロジェクトや起業が生まれています。

高橋課題解決の方法としては大きく分けて2種類、資本集約型の解決方法と知識集約型の解決方法があると思います。資本集約型は課題の解決は速いですが、大学で考えると補助金や外部の資本がなければ続かない。一方、知識集約型は、時間はかかっても、地域や組織の中に“解決する力”が蓄積されるんです。デジタル人材の育成では、「地育地採」──地域で育て、地域で採用する──を合言葉に、行政・企業・大学の三位一体で取り組んでいます。

羽藤「何から始めればいいか分からない」という声は多いですが、異なる立場の人が集まって話すことで方向性が見えてくる。結局のところ、鍵になるのは“人と知識の組み合わせ方”です。

高橋正解の型がない時代だからこそ、知識を更新し、他者とつなげて使い直すことが必要なんです。学び直しは、そのための基盤なんですよね。

※1 リスキリング
 時代のニーズに即して職業上新たに求められる能力・スキルを身に付けること。
  *出典:文部科学省「国立大学法人等の機能強化に向けた検討会改革の方針(令和7年8月29日)」
※2 PBL
 Project Based Learningのこと。自ら課題を見つけ、さらにその課題を自ら解決する能力を身に付ける学習方法。
※3 リカレント教育
 リスキリングや、現在の職務を遂行する上で求められる能力・スキルを追加的に身に付けること(アップスキリング)の双方を含むとともに、
 職業とは直接的には結びつかない技術や教養等に関する学び直しも含むもの。
  *出典:文部科学省「国立大学法人等の機能強化に向けた検討会改革の方針(令和7年8月29日)」
大学の価値は“寛容さ”にある
──失敗を許すから挑戦が生まれる

高橋大学の価値は色々ありますが、私は“挑戦できる環境”が核心だと思っています。今の社会では、企業や行政での失敗は評価に直結し、挑戦がしづらくなっています。だからこそ大学には挑戦と、その失敗を受け止める“寛容さ”が必要です。

羽藤本当にそうですね。大学の「まずやってみよう」と言える空気はとても貴重です。

高橋失敗して初めて知識が自分の中で動き出す。安心して試せる場としての大学の役割は大きいと思います。

羽藤学生も、PBLでの試行錯誤を通して大きく成長しますよね。うまくいかない経験ほど力になります。

高橋愛媛大学は“総合大学”だからこその多様な専門家が集まっており、失敗した学生を別角度から支えられる環境もあります。

羽藤分野をまたいで気軽に相談できるのは本当に大きいですよね。多様な専門性が寛容さを後押ししていると感じます。

高橋失敗を分析し、違う道を示せる専門家がそろっている。寛容さと専門性の両立は、大学という知の交差点ならではです。

羽藤大学には「やってみて、ダメでもいいよ」と言ってくれる人がいる。社会ではなかなか得られない安心感です。

高橋大学は、学生でも社会人でも、学びたいときに戻れる場所でありたい。挑戦し、迷い、また戻ってこられる“器”として、この寛容な学びの文化は、絶対に守らないといけない。今は、その節目に来ていると本気で感じています。

卒論は“知識を使う”最初の一歩
──試して、迷って、身になる

高橋卒論は、授業で学んだ知識を“実際に使ってみる”最初の経験だと思うんです。知識は使ってみて初めて自分の中で動き出します。

羽藤授業で分かったつもりでも、いざ自分で調べると思うように進まない。その中で「どう使うか」を考え始める。

高橋うまくいかないからこそ、別の方法を考え、そして、視野が広がる。卒論の価値は、その“知識を使いながら試行錯誤する経験”にあると思っています。

羽藤実験や調査を通して、自分で判断しながら進める経験が一番の学びになりますよね。結果がどうであれ、それが研究だと思います。

高橋資格を取ることがゴールではなくて、それをどう使えるかが大事。社会に出ると失敗が評価に直結しますが、大学は“知識の使い方を試せる”場所であるべきだと思います。

羽藤卒論は、小さくても“自分で考えてやり切る”経験になり、社会に出たときに効いてくると思います。

高橋卒論は学びの終点ではなく、“これから学び続けるための方法をつかむ出発点”なんです。

大学は“学びの公共インフラ”
──いつでも、誰でも学びに戻れる場所

高橋リスキリングは社会人向けと思われがちですが、本来は学生でも受けられるものなんです。必要なときに誰でも学べることが大学のあるべき姿です。本学では、企業等からの寄附金を活用し、教科書代や受験料の支援、大学院生等による伴走支援も行っています。

羽藤確かに「働き始めてからの学び」というイメージの方が強いですが、学生も別の分野を補強したいというニーズがあります。

高橋“総合大学”で、あらゆる分野の専門家が集まっている集団だからこそ、横断的な学びに応えられる強みがあります。

羽藤最近はオンラインや夜間、週末の講義も増えて、働きながらでも受講しやすくなっています。履修証明プログラムや短期講座など、選択肢も充実してきました。

高橋入口が狭いと「無理だ」と諦めてしまう。それは、とてももったいない。そこを広げるのが大学の役割だと思います。

羽藤高校生でも「学びたい」と思えば受講できる講座がありますよね。柔軟さは大学の大きな魅力です。

高橋大学は本来、“いつでも戻ってこられる場所”。社会に出てから「やっぱりもう少し学びたい」と思った時にも、扉を叩ける。学生のときには気づかなかった学びの価値に、後から気づくこともありますしね。

羽藤「今、必要だ」と思うタイミングで学べるのは、大きな価値です。

高橋“寛容”というのは、失敗を許すだけでなく、戻ってくることを歓迎する文化でもあります。大学は、その寛容さを持って、誰に対しても門戸を開いておくべきだと思います。

羽藤誰もが自分のタイミングで学びに入ってきていい。色々な人が混ざることで、互いに学び合える場になるんですよね。

高橋そういう意味で、大学は“学びの公共インフラ”。必要なときに誰でもアクセスできる存在であり続けたいと思います。

地域に大学があるということ
──人が交わり、知が出会い、動きが生まれる場所

羽藤本学のリカレント教育では、柑橘、森林、水産、観光、防災、社会基盤など、地域の現場に直結した多様な講座を展開しています。大学は知識を提供するだけでなく、様々な人が出会い、つながる場なんです。

高橋総合大学には多様な専門家が集まっていて、誰に相談しても必ずどこかにつながる。これは地域にとって大きな資源です。

羽藤リカレント教育では、行政、企業、学生、研究者が同じテーブルにつきますが、そこから自然に“ハブ人材”が生まれていくんです。特別な肩書きがあるわけでなく、人と人をつなぐ役割をなぜか担っていく人たちなんですよね。受講生同士の名刺交換から共同事業や移住・起業へとつながるケースも増えています。

高橋その「自然に育つ」というのが大学らしいです。異なる分野や立場の人と話す中で、誰かの話を別の人に伝えたり、相談に乗ったり、そういう小さな“つなぎ”の積み重ねが、課題解決にもつながっていく。

羽藤つながりが広がると、大学と地域の距離がぐっと縮まります。受講生が職場に持ち帰り、学びを広げてくれることで、地域全体に変化が生まれるんです。

高橋大学は“人が交わり、新しい動きが生まれる場所”。そこからハブとなる人材が育つことで、地域の挑戦の幅が広がる。これは大学でしか担えない役割ですね。

学びの循環が地域を強くする
──つながり続ける大学の価値

羽藤大学で学んだ学生が社会に出て、また学びに戻ってきてくれるのは本当に嬉しい循環です。最近は、リカレント教育プログラムの受講生が、学環・大学院に進むケースも増え、「学び→実装→再学び」という循環を回しながら地域に戻る流れができています。

高橋理想は、大学で良い経験をし、就職して、また学びが必要になったら戻ってきて、さらに社会で活躍して、いつか大学へ寄附という形で還元してくれる、そんな“好循環”です。それはお金の話だけではなく、“関係の循環”なんですよね。

羽藤戻ってきてくれるということ自体が、大学への信頼の証でもありますよね。

高橋歳を重ねるほど「もっと知っていれば良い判断ができたのに」と思うことがあります。だから、学び続けられる場が必要なんです。

羽藤地方は、東京ほど“すぐ近くに学べる場が揃っている”わけではありませんからね。

高橋だからこそ、「地方では学べない」と思われるのは悔しいんです。愛媛大学があることで、“ここでも学べる” “ここでしかできない学びがある”と言えるようにしておきたい。

羽藤その実感を持ってもらえるかどうかは大きいですね。

高橋大学は、学生にも地域の人にも、教職員自身にも、学び続ける機会を提供する場所でありたい。そしてその経験がまた大学に戻ってきて、次の学びをつくる。そうした循環を守り続けることが、これからの大学の責務だと思っています。

羽藤その循環が回り続ければ、大学も地域も互いに成長できます。地域の人たちにも、「敷居が高い」と思わずに、もっと気軽に来てほしい。本当に“誰でも学べる場所”なんですから。

高橋大学は、人の挑戦に寄り添い、学びをつなぎ続ける存在であること。それが、これからの大学の意義だと思います。

今回の対談では、大学が持つ挑戦を支える寛容さと、分野や立場を越えて人をつなぐハブ人材の育成、そして学んだ人が社会へ戻り、また学びに帰ってくる学びの循環の大切さが語られました。学びは一度では終わりません。必要なときにまた大学へ戻り、やがて地域へと還流していく――その積み重ねが、大学と地域がともに育つ“知の好循環”をつくります。誰もが学びたいときに戸を叩ける場であり続けるために、挑戦を支える寛容な文化を守り、未来へつないでいくために。
大学はこれからも、地域とともに歩みながら、次の一歩を探り続けます。