EHIME UNIVERSITY Organization For Creation of Our New Value
未来価値創造機構
地域の未来を支える
知の拠点としての
大学
愛媛大学
学長
仁科 弘重
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愛媛大学
未来価値創造機構長
山下 政克
愛媛大学 学長
仁科 弘重 にしな ひろしげ
1998 年4 月に農学部教授となる。農学部長、理事・副学長を経て、2021 年4 月から学長に就任。現在2期目。2017 年10 月から6年間、日本学術会議会員も務めた。
専門分野は「農業環境工学、植物工場」。農学博士。
愛媛大学 副学長(未来価値創造、広報)
未来価値創造機構長
山下 政克 やました まさかつ
2012 年10 月に大学院医学系研究科教授となる。大学院医学系研究科長、医農融合公衆衛生学環長を経て、2024 年4 月から副学長、未来価値創造機構の初代機構長に就任。広報室長も務める。
専門分野は、「免疫学」。博士(薬学)。
Summary

未来価値創造機構の新企画「未来価値について議論する場とプラットフォームの創出」のスタートとして、仁科学長と山下機構長の対談を実施しました。大学の役割、社会人教育、知の価値、ダイバーシティ、地方社会への提言など、幅広いテーマについて意見を交わしました。
【対談日:2025年5月9日 ※所属・職名は対談日時点のものです。】

未来価値創造機構の設置背景
──多様な価値を議論する場の創出

仁科未来価値創造機構には大きな期待を寄せています。私は「付加価値」という言葉をよく使いますが、日本人はモノ・コトを高く売ることに慣れていないため、夢や想いを込めて価値を高める努力が必要です。単なる材料の組み合わせではなく、そこに意味や想いを加えることで価値が生まれます。個人が満足感を得て幸福な人生を送るためには、自ら価値を創造することが重要です。

山下個人が尊重される時代だからこそ、多様な価値を議論していきたいと思います。機構内のメンバー間でも何かと意見が分かれますが、それも価値の多様性を示していると感じます。

大学の役割と教育の本質
──教育・研究・社会貢献の連携

仁科大学の役割は、教育・研究・社会貢献という機能を通じて、人材・知的資産・社会に付加価値を加えることです。教育は知的レベルを高める営みであり、研究は新しい視点を加えて知識に価値を加えるもの。社会貢献も、地域の力に新たな価値を加えることです。
大学は未知を明らかにする場であり、教員は自身の研究成果や経験を踏まえて講義を行うべきです。教科書に書かれていないことを教えることが、大学教育の本質です。特に、専門性が高くなると同じ科目でも教える内容は教員によって異なります。それは、研究を通じて得た知見が教育に反映されているからです。
教育と研究は切り離せないものであり、研究があるからこそ教育に深みが生まれます。教育・研究を社会に向けて、海外に向けて応用するのが社会連携・国際連携であり、大学の知的資産を広く活かすための重要な機能です。

山下そうですね。教育と研究は密接に結びついており、研究力がなければ教育も社会貢献も成り立ちません。課題を発見し、解決する力を育てることが大学教育の本質だと考えます。

社会人が学び直す大学院
──経験を知に変える仕組みづくり

山下人口減少・縮小社会において国の力を維持するには、社会人がリスキリングやリカレント教育を通じて大学院で学び直す仕組みが必要だと感じています。社会人が戻って来られる大学院とは、どのようなものだとお考えですか。

仁科実績ある社会人の博士課程での修業年限短縮が検討されていますが、社会人が新たに実験や分析を行うのは現実的ではありません。特に、40〜50代の社会人は豊富な経験やデータを持っています。それらを整理・分析し、新しい知見としてまとめることで、博士号取得につながると考えています。
従来の学部~修士~博士と、就業などを挟まずに進学する学生とは異なり、社会人博士には別の育て方が必要です。アカデミアで活躍する人と、社会における知的な厚みを増す人とを分けて考える視点が重要です。

山下確かに、社会人大学院生は専門性が確立されている方が多いです。その専門性を活かしつつ、更なる専門性を修得し、社会に還元する仕組みが必要です。また、個人のモチベーションを高めることも大切です。例えば、自治体や企業と連携し、社会人教育を大学に組み込む。あるいは、都市部から愛媛大学へ来てもらい、本学の得意分野で学んでもらうことも一つの方法だと思います。

社会人大学院生の獲得戦略
──地域連携と人的交流の可能性

仁科最終的には、社会人が学び直せる大学院の仕組みを整える必要があります。ただし、これは社会全体の意識改革も伴う課題です。行政や企業など、あらゆる分野で「学び」の価値をもっと評価してもらうことが重要です。

山下私は修士課程修了後、製薬会社に勤務し、数年後に大学の研究所へ出向して論文博士を取得しました。その後、大学教員になりましたが、会社は私の移籍後も大学との人的交流を続けてくれました。結果として、数人が博士号を取得しましたが、こうした流れが、個人的なつながりからでも始まれば良いと思います。

仁科本学の紙産業イノベーションセンターでも、社会人の修士課程学生を受け入れています。ある企業では代わる代わる人材を送っており、密な共同研究が行われています。これは研究と人材育成の両面に貢献しています。

山下そのような取組みは、地方創生や地域活性にもつながるはずです。紙産業イノベーションセンターの事例は、非常に優れた成功例だと感じています。学長が各地でこうした取組みを進めていることは、たとえ散発的でも、それらが集まっていくことで、最終的に目指すところに近づいていくのではないかと思います。

価値とは何か
──「モノ」から「コト」への転換

山下学長が考える「価値」とはどのようなものでしょうか。

仁科一般的には「モノ」より「コト」に価値を見出すことが多いですね。例えば、田舎での観光体験などです。最近、羽田空港で地方の物産展示をしているのを見かけ、小さな手毬に2万円の値がついており、それを買う人がいる。材料費だけではなく、そこに込められた想いや努力が価値になっていると感じました。
企業との共同研究についても、材料費と時間を積み上げるだけでは不十分だと感じます。私たちの知見や経験には、それ以上の価値がある。日本人の美徳である謙虚さも大切ですが、自分たちの価値をもっと正当に自己評価する姿勢が必要です。

山下企業側から価格の根拠を求められるため、どうしても積算的な発想になりますが、大学の価値は単純な足し算では測れません。大学が「これだけの価値がある」と判断し、それに基づいて進めるべきです。企業も、愛媛大学の価値を認めたうえで連携する姿勢が必要だと思います。

知の拠点としての大学
──知的レベルの総和を高める挑戦

山下学長がよく「知の拠点」とおっしゃるように、これからの大学には、研究者や教員が持つ「知」をいかに価値ある形で社会に還元するかが求められています。単なる積算ではなく、付加価値を加えて社会に返すことが重要です。

仁科国立大学協会のワーキンググループでも「知の総和」について議論しました。これは「人 × 知的レベルの合計」で表される概念です。人口減少や競争力低下が進む中、一人ひとりの知的生産性を高めることが不可欠です。
学部卒業生よりも、修士・博士課程を経た人は、より高度な仕事や研究が可能でしょう。今は、個人が自らの人生設計の中で、知識と知恵を高めていく必要があります。
文部科学省が掲げる「博士人材活躍プラン」も、社会人博士を増やすという観点からの取組みです。人口が減る中で、「人 × 知的レベル」の“人”が減っていくなら、知的レベルの方を上げていくしかありません。

イノベーション人材の育成
──スーパースターを生む土壌づくり

山下「知の総和」を高めるには、外国から人材を呼び込むだけでなく、飛躍的な成果を生む“スーパースター”的な存在が必要だと思うのですが、そうした人材育成についてどう考えますか。

仁科確かに、ノーベル賞受賞者のような突出した人材は重要ですが、育てようとして育つものではないと思います。イノベーションも、個人のセンスや他者との交流による化学反応から生まれるもので、教育で直接育てるのは難しいです。

山下ただ、イノベーションにつながる可能性を高めることはできます。広く経験を積ませることで、タレント性を持った人が現れる確率は上がります。社会課題の発掘や問題解決力の育成は、イノベーション人材の土壌づくりにつながると思います。経験を積ませる仕組みを構築することが重要だと感じています。

ダイバーシティの推進
──外国人・女性の活躍を支える環境

仁科ダイバーシティの推進も重要です。国立大学協会では、留学生を全学生の3割まで増やす方針を示していますが、これは非常に大きな目標です。単に労働力として受け入れるのではなく、定住を視野に入れた受け入れ方を考える必要があります。日本人が減る分だけ留学生を受け入れ、半分が母国に帰っても、残りが日本に定着すれば、知的レベルの維持につながります。
女性の活躍も課題です。学生、研究者、経営層など、様々なレベルでの取組みが求められます。ライフイベントによって女性が不利になることのない環境づくりが必要です。

山下外国人の受入れについては、「日本に来たいだろう」という前提で議論されがちですが、国力や教育・研究力が低下している今、本当に日本を目指して来てくれるのか不安です。物価の安さやアニメなどの理由だけで来るようになってしまう可能性もあります。

仁科賃金が安い日本に魅力を感じてもらえるかは大きな課題ですね。

地方分散型社会の構想
──スモールシティによる持続可能性

仁科東京一極集中は現時点では効率的かもしれませんが、将来的には地方からの人材供給が難しくなり、深刻な状況になります。私は、地方に人口10万人規模の都市を点在させ、その周囲で食料を生産する分散型社会が必要だと考えています。分散型社会は災害にも強く、インフラの効率化にもつながります。例えば、都市が縮小するとインフラの維持が困難になります。埼玉県八潮市で起きた道路の陥没事件では、下水配管の修理に7年かかるという見込みも出ていましたが、これは全国どこでも起こり得る問題です。
スマートシティよりも、まずはスモールシティの発想が重要です。人々がまとまって住むことで、インフラ整備や情報社会の推進などが効率化されます。能登地方の復興の現状を見ても、スモールシティへの転換が必要だと感じています。

山下おっしゃるとおりだと思います。

未来価値創造機構のゴール
──新たな価値の提言に向けて

山下最後に、未来価値創造機構のゴールについてお聞かせください。学長は何を求められていますか。最終的には、何らかの提言をまとめることをイメージされていますか。

仁科極論、成果は何でも構いません。「価値」という名前をつけて、どんなモノやコトを価値と認め、それをどう創造・付加するかを考えてほしいです。名前にはあまりこだわらなくてもいいですが(笑)。提言をまとめることが理想ですね。

山下提言をまとめる際、私は具体的な実行計画まで考えてしまいますが、まずは議論を深めることが大切だと思います。中期的未来に向けた新たな価値に基づいた提言をまとめていきたいです。

今回の対談では、大学が果たすべき役割や、未来価値の創造に向けた教育・研究・社会連携のあり方について、仁科学長とともに多角的な視点から議論を深めることができました。社会人教育やダイバーシティ、地方分散型社会の構想など、現代社会が抱える課題に対して、大学がどのように価値を提供できるかを考える貴重な機会となりました。未来価値創造機構では、今後もこうした対話を重ねながら、本学の未来価値を言語化し、提言としてまとめていきます。