日野愛媛県内を回ると、南予や東予の中山間地域や島しょ部では人口減少が特に進んでいます。小規模校には課題もありますが、地域が子どもに寄り添い、ICTを活用しながら学びを支える工夫が進んでいます。地域や大学、企業、研究者が授業や課題研究に助言者として関わり、学校単独では解決が難しい課題について、外部と連携して実施する動きが広がっています。
川本愛媛県における高校の生徒数は1990年度に約7万人であったのが、2021年度には約3万人に減少しています。今後2060年までにさらに半数程度になるという推計もあり、少子化が進んでいます。一方で、遠隔授業配信センターの整備やオンライン交流の普及により、小規模校での学習環境が、一層充実しています。県外から入学する生徒も増えていますが、県外から入学した生徒たちに『愛媛の高校に来てよかった』と言ってもらえるように、地域の関係機関や企業とも連携して教育の質の向上を図っています。
日野小規模校では都市部とは違った環境のもとでの教育が求められます。どのように学びを支えていくかは大きなテーマです。
川本人口減少の中で、一人ひとりの学びをどう確保するかは大きな課題です。地域の方々や企業、自治体、大学等と連携しながら、環境に応じた教育を模索していく必要があります。
日野高校では探究的な学びが本格化し、自分で問いを立てて学ぶ生徒が増えています。以前の「知識注入型」からの変化が鮮明です。
川本私が校長をしていた三崎高校では、平成27年度から「三崎おこし」という探究的な学習を始めました。当初は『高校でこんなことをする意味は何か』という声もあったそうですが、生徒が主体的に地域と関わる中で成長することにより、その価値が理解されていったようです。
日野特に印象に残っている場面はありますか。
川本例えば三崎高校では、地域の方々と連携して避難訓練を実施する際、生徒たちが、自力で逃げられない人をリアカーで運んだり、訓練に参加してくれた小中学生に向けた防災クイズを実施したりしました。他にも商品開発やイベント等の分野で、生徒たちのアイデアを生かした実践が数多く生まれました。
また、他の事例ですが、探究的な学びを発表し合い、共有し合う場である「えひめスーパーハイスクールコンソーシアム」で、「マツカサガイ」という貝の研究をした愛媛大学附属高校の生徒が、質疑応答の際に『初めてその貝を見たときどう思いましたか』と質問され、『黒いつまらない貝だと思いました』と答えるやりとりがあったのです。しかし、研究を続けるうちに、その貝が宝物のように見えてきた。何気ないものが新しい価値を持つ──これが探究的な学習の醍醐味と言えるでしょう。
日野探究的な学習で重要なのは「問いを持てるか」だと思います。問いが深まるほど学びも深まる。失敗や試行錯誤も避けられませんが、問いを立て、解き、次の問いを生む──その循環が深い学びにつながります。
川本発表の場での生徒の成長は明確で、相手に合わせて言葉を選び、堂々と述べる力が育っています。探究を続ける中で、問いに自分がどのように関わっていきたいのかという「自分の軸」が見えてくる生徒も多く、コンソーシアムでの質疑応答のレベルも年々上がっていると感じます。
日野 高校での探究的な学習が広がる中、大学としては「その学びをどう受け取るか」が大きな課題です。主体的に学んできた生徒が、大学で「知識注入型」に戻らないよう、接続を丁寧に考える必要があります。高校で育った問いを大学でどう伸ばすか、入学後の教育を見直す時期に来ているかもしれません。
川本学力観の見直しを踏まえ、大学入試のスタイルが変化してきたことは、探究的な学習を一生懸命にやった生徒にとってはプラスになっています。プレゼンテーションやディスカッションといった試験項目により、生徒の多様な能力や個性が評価される機会も増えてきていると感じています。
日野本学の「地域教員希望枠※1」入試では、高校での地域創生に関わる教育活動などを出願要件とし、高校での学びがキャリアに直結するようにしました。
川本高校生が大学生や大学院生と接点を持つ場面も増えました。探究的な学習のサポートを通して大学が身近になり、進路のイメージが具体化します。研究や勉強についてだけでなく、アルバイトや就職なども含め、高校卒業後の生き方を考えるためのモデルにもなるため、学生との交流は教育効果が大きいようです。
日野附属高校でも大学と連携した課題研究を進めていますが、こうした「重なっていく形」のプログラムは、高大接続の大きなヒントです。今後は学びを分断せず、自然につながる流れをつくりたいです。
川本先ほどお話しした「えひめスーパーハイスクールコンソーシアム」など、高校生の発表の場に学生が参加し、質問や助言をしていただく場面もあります。そのやり取りを見ていると、双方にとって良い循環が生まれていると感じます。大学と高校が互いを理解し、連携することが大切ですね。
日野「問いを持ち続ける力」を支える土台は、やはり学校という場です。令和3年の中央教育審議会答申で「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的充実が示されました。子どもの多様化が進む中、多様な能力や背景をどう包摂するかが大きなテーマです。
川本「協働的な学び」は教育の大きなテーマですが、一方で「個別最適化された学び」は壮大な理念だと思うことがあります。個別最適化の難しい点は、例えば高校の評価だと、理解力が高い生徒にはその生徒なりの評価をして、さらなる成長を期待したい反面、他の生徒と平等に、同じように評価しなければならないという側面もあります。個別最適な学びの実現のためには、個別最適化されたゴールの設定が必要だと思いつつも、理念と実践には隔たりがあると感じることもあります。
日野だからこそ、個別最適化を単なる「評価の細分化」に留めないことが重要だと思います。私たち教育学部でも才能教育センター※1のような取り組みを進めていて、横並びの評価ではなく、一人ひとりの能力をどう引き出すかに重点を置いています。教える(ティーチング)よりも、可能性を引き出す(コーチング)教育が、これからますます必要になると実感しています。
川本評価は、現状を点数化することよりも、資質・能力を「引き出す」ことに重心を置く視点がこれからますます大事になりますね。
日野ただ、個別最適だけが進むと学校の存在意義が薄れる恐れもあります。だからこそ「協働的な学び」が重要で、異なる背景の生徒同士が学び合う価値は大きいです。苦手な生徒が得意な生徒に引っ張られる学びも学校における大きな価値です。
川本協働性は本当に大切です。高校生が学校行事や部活動等で何らかの役割を担うことで、責任感や相手への理解が育っていくという事例は多いです。
日野最近は通信制を選ぶ生徒も増えているようですね。マイペースで勉強したい気持ちは理解できますが、学校行事や集団活動が少ない中で社会性をどう育てるかは課題です。
川本中学校卒業時から通信制を選ぶ生徒や、全日制高校から移る生徒もいます。生徒によっては効率的に勉強ができる場合もあるかもしれないですが、社会性をどのように補っていくかはしっかり考えていきたいところですね。
日野大学でも、個別の学び方に偏り、集団で働く力が弱くなっている印象があります。「チームで働く力」をどう育てるかを改めて意識しています。
川本学校行事や部活動は、そうした力が育つ貴重な場です。役割を担い、誰かを支えたり、集団をまとめたりする経験は、社会に出てからも活きます。特に小規模校では、人数が少ない分活躍の場が多く、かつ同じメンバーと何度も活動していく中で、生徒たちは仲間一人ひとりとの適切な距離の取り方を自然と身に付けていると感じます。
日野不登校や支援が必要な生徒も増え、個別の教育指導計画は欠かせません。ただ、やはり協働的な学びは重要だと思います。
川本高校の魅力を地域に届けるため、そして小中学生が高校を選ぶ際の参考となるように、今年度、高校教育課で初めて「えひめ県立学校進学フェア」を開催しました。商業施設やホールを会場として、保護者や中学生が自由に立ち寄り、色々な高校の先生や生徒から説明を聞いたり、質問をしたりすることができる場をつくりました。
日野商業施設での開催は、偶然通りがかった人も参加できるのがいいですね。高校の様子を直接見られる機会は貴重です。
川本松山工業高校の生徒がロボットを持ち込み、プログラミングで動かして見せていました。小さな子どもたちが夢中になっていて、学校の魅力をその場で感じてもらえたと思います。
日野実物が見える取り組みは、学校が何を大事にしているか伝わりやすいですね。
川本市町の広報誌やデジタル広告など、新しい発信方法にも挑戦中です。また、今年度は更に、「留学フェア」も開催しました。アイテムえひめを会場として、令和8年度から新たに国際科や国際コースを設置する予定の学校の生徒が留学体験を発表するなど、様々な機会を捉えて、県立学校の魅力のPRに努めています。
日野自治体の広報やデジタル発信は保護者層にも届きやすそうです。地域と学校がつながるきっかけにもなりますね。
川本県下の市町で予算を組んで、地域の高校を支援してくださっている事例もたくさんあります。高校の存続が地域の未来につながるという考えです。高校教育の中でも、それぞれの学校が存在する地域の魅力を高校生たちが自覚し、誇りに思えるように、教育活動を進めることが大切だと思います。
日野地域が高校を支え、魅力を一緒に考える動きは本当に大きいですね。
川本学校の魅力化の発信は、単なる広報ではありません。「学校の魅力」とはすなわち、「生徒の成長」です。魅力を感じた子どもたちが将来像を描き、やがて地域を支える人材へ育っていきます。
日野小学生は10~15年後には社会の中心世代です。教育は「今の社会」のためではなく、将来活躍できる人材を育てることが目的です。変化の時代でも、人とのつながりや問いを持つ力を育てることが重要だと思います。
川本教員養成でも、未来を見据えた人づくりが求められます。愛媛県では県立学校振興計画に基づき、新しい学科やコースを作りましたが、県民の皆様にとっては、成果が出るかは大きな関心事だと思います。小松高校や伊予高校の教員養成コースも、新しいチャレンジです。
日野そうした高校教育の変化を支えることも、大学の教員養成だと思います。教育学部の使命は地域に教員を輩出することです。令和6年度に教育学部を卒業し就職した者を母数とすると、教員就職率は約78%で、そのうち約65%が愛媛県内で教員として活躍しています。
川本教育学部で、地域に根差した教員がしっかり育っているということですね。愛媛県への就職が多いのはとても心強いです。
日野学生が附属学校園や母校など身近な学校で教育実習を行い、地域の先生方にしっかり育てていただく環境があるからこそです。教員を目指す学生にとっては、教育実習が特に大きな節目で、現場の先生から受ける影響は大きいようです。
川本現場の先生がロールモデルになるというのは本当に重要です。未来を担う子どもたちを指導するのは、今学んでいる若者です。
日野今の学生が未来の教育を担い、更に次の世代に影響を与えていく。その循環の中で、大学として人材育成に関わる責任の重さを感じます。
川本高校も大学も、未来を見据えながら教育をデザインしなければいけませんし、人が人を教えることの重要性は、どんな時代でも変わりません。
日野教育は人なり、と言いますが、テクノロジーが進んでも、最後は人と人のつながりが核です。AIでは代替できない、人との関わりの中で育つ力を、これからも大切にしたいですね。
川本人材育成は一方通行ではなく、育った人がまた次の学びを支えます。高校・大学と地域を行き来する循環こそが、教育の持続可能性を生みます。
日野高校と大学の連携は、今後更に自然な形になっていくと思います。お互いの取り組みを理解し合うことで、学びの流れがスムーズになります。
川本地域の大学は、存在そのものが地域の力になります。授業等で困った時に愛媛大学に相談できるのは非常に心強いです。スーパーサイエンスハイスクール(SSH)や探究活動等で大学の先生に助言をいただく機会がありますが、そうした接点で高校の取り組みを理解してもらえると、連携は更に深まります。
日野大学としても、高校生が大学の取り組みに参加する機会を増やしたいです。SNS発信だけでなく、実際に来てもらうとより伝わることが多いのではないかと思います。直接関わることで、進路や将来を具体的にイメージでき、また、大学生にも良い刺激になります。
川本実際、一緒にいる場を見ると双方が学び合っています。高校生は大学の学びを近くに感じ、大学生は教える経験を通して学びを深めていると思います。
日野高校と大学、そして地域が自然につながり、互いに影響しながら学び続ける。そうした循環が地域の教育を支える形になっていくと思います。地域の未来を担う高校生や大学生を、一緒に育てる関係を続けていきたいですね。
人口減少や学校の多様化など、教育環境は急速に変化しています。高校では探究的な学習が広がり、大学でその学びをどうつなぐかが課題です。愛媛大学教育学部には、地域に教員を輩出し、未来を担う人材を育てる使命があります。今の学生が未来の教育を担い、次の世代へとつなげていく循環をどう築くか――その視点が、地域の持続可能な教育を支える鍵です。高校・大学と地域が強みを活かし、柔軟に協働する――今回の対談は、その循環の築きを考える一歩となりました。